米国株式市場の割安、割高を判断する材料になる指標、「マージンデット」と「マージンデット指数」の最新データの確認記事です。
マージンデットとマージンデット指数の説明は長くなっていましますので、初めに数値の確認と、結論部分、マージンデット指数による現状判断を書きます。
その後、改めてマージンデットとマージンデット指数の説明を行います。
できれば最後までおつきあいください。
マージンデット、マージンデット指数の確認(2017.4月)
2017.4月末の
★マージンデット:5492億ドル(1995年以降で過去最高額)
★マージンデット指数:2.83(1995年以降で過去最高値)
マージンデット指数による米国市場の現状評価
2017.4月末のマージンデット指数は「2.83」でした。
近年では過去最高の値です。
すでに2015.4月には2.81を記録し、ITバブル時のピーク(2.71)やサブプライムバブル時のピーク(2.63)水準を超えたていたのですが、「2.83」は2015.4月末の「2.81」を超えた近年で最高の値となっています。
そして、単なるわたしの経験的な判断に過ぎませんが、
「2.4」以上は米国株は割高圏の可能が高い
と考えており、この指標だけで考えると、米国市場は割高圏の水準です。
したがって、長期投資のタイミングとしては、
◎資産配分において、株式の配分比率を減らす
◎資産配分において、現金の配分比率を増やす
◎長期投資を一時やめる
のに適す時期だと考えています。
※長期投資に関する一つの判断です。短期、中期的な投資には役立たない可能性が高いです
※バリュー投資の発想から「割高な時期に株を売り、割安な時期に株を買う」という判断に基づいています
※単なる個人の感想です。未来は誰にも予知できません。投資は自己判断、自己責任で
以下、「マージンデット」と「マージンデット指数」の説明です。
マージンデットとは
マージンデット(Margin Debt)は、米国の株式市場(ニューヨーク証券取引所)が公表しているデータです。
マージンデットは「証拠金債務」のことであり、わかりやすくいえば、
「アメリカの投資家が株の売買ために金融機関から借りているお金の総額」
のことです。
※マージンデットのデータはコチラ ⇒ ニューヨーク証券取引所
マージンデット(指数)を知るメリット
★長期的な観点から米国株式市場の割安割高を探る材料になると思われます
マージンデットの長期推移グラフ
1995年1月末~2017.3月末のマージンデットの長期推移をグラフにしてみてみます。
※出所:ニューヨーク証券取引所データより管理者作成
大きな山が、
ITバブル(2000年)
サブプライムバブル(2007年)
2015、2017年
にあります。
大きな谷が、
ITバブル後の低迷期(2002~2003年)
リーマンショック後(2008~2009年)
にあります。
非常にわかりやすく、バブル期とその後の暴落、低迷期を示していることが見て取れます。
マージンデットをどう解釈するか
マージンデットは何を伝えているのでしょうか。
わたしは、米国市場の「投資家心理」と「信用状態」を示唆する指標だと考えています。
※日本の信用買い残とほぼ同じ解釈です
それぞれ説明します。
<投資家心理とマージンデット>
信用取引には利子がかかります 。「信用取引で買う」という行為は
わざわざ利子まで払って、
他人のお金を借りて、
株式の買いにつぎ込む行為
です。
これはかなり投資に前のめりな、リスクテイク志向な行為です。株価の上昇への期待感が大きい、楽観的な行為です。
したがって、マージンデットが増加するシーンやマージンデットが大きい状態の投資家態度・心理は、
●総じてリスクテイク志向
●楽観、期待、安心モードに偏っている
と判断してよいと考えます。
逆に、マージンデットが減少するシーンやマージンデットが小さい状態の投資家態度・心理は、
●総じてリスク回避志向
●悲観、失望、不安モードに偏っている
と判断します。
<信用状態とマージンデット>
また、お金を借りて株を買う行為は、まさに信用を拡大させる行為です。
●マージンデットが増える ⇒ 信用拡大
●マージンデットが減る ⇒ 信用縮小
ごく簡単に「信用」を説明すると、
信用=貸し借りの関係
です。借金したら拡大して借金を返したら縮小するものが信用であり、
「信用状態=世の中の借金のふくらみ具合」
です。
つまり、マージンデットは金融機関からの借金で増える数値なので
●マージンデットが増える⇒信用が拡大する
●マージンデットが減る⇒信用が縮小する
といえます。
では「株式の割安割高」と「信用状態」がどう関係するのか?
端的にやや乱暴にいってしまうと、
●世の中全体の借金が膨らめば膨らむほど(誰かが借金すればするほど)
●世の中全体の資産評価額は増加し、株価は上がりやすく
●株式は割高になる傾向がある
と思われます。
信用拡大⇒資産評価額増加傾向
⇒株価上昇傾向⇒株式は割高?
同様に、
●世の中全体の借金がしぼめばしぼむほど(誰かが借金を返せば返すほど)
●資産評価額は減少し、株価は下がやすく
●株式は割安になる傾向がある
と思われます。
信用縮小⇒資産評価額減少傾向
⇒株価下落傾向⇒株式は割安?
要するに、
株価は、世の中全体の借金の膨らみ具合の影響も受ける
ので、
信用状態の把握は株式の割安割高の判断指標にもなり得る
と思われます。
そして、世の中の信用状態を示唆する指標の一つがマージンデットだと考えられます。
マージンデットの問題点
このままマージンデットだけの分析で結論に向かうのには問題があります。
マージンデットだけでは、ある程度の傾向はつかめても、長期的な投資家心理や信用状態の変動を、的確に把握し続けることが困難だからです。
再度グラフを見ればわかるように、マージンデッドは1995年以降、長期的には右肩上がりになっています。
※出所:ニューヨーク証券取引所データより管理者作成
リーマンショック後の底値(約1733億ドル。2009年)でも、ITバブル後の底値(約1302億ドル。2002年)を上回っており、1995年頃の値と比較すれば、はるかに大きな値です。
同様に2017年の高値(約5492億ドル)はサブプライムバブル時の高値(約3813億ドル。2007年)を凌駕しており、ITバブル時(2000年)の高値と比べれば、2倍ほどの大きな値となっています。
これでは、
「2017年、マージンデットが過去最高額になった!」
と騒いでも(だれも騒いでませんが)、2017年の過熱相場がサブプライムバブルやITバブルを超えるバブルなのかどうか、判然としません。
そこで相関関係に着目します。
「マージンデット」と「株式時価総額(米国)」
の間には、強い相関があります。
また、長期的には、
ある国の株式時価総額と名目GDPの間には強い相関がある
と考えられます。これらの関係性を根拠に、
★マージンデットは、長期的には名目GDP(米国)に大きく影響を受け、GDPの変動次第で大きくぶれてしまう値である
★したがって、マージンデットだけでなく、GDPの動きも同時に見れば、長期的に米国の信用状態や投資家心理を的確にとらえ続けることが可能になるのではないか
と考えます。
★それぞれ強い正の相関がある
「マージンデット」⇔「株式時価総額」⇔「名目GDP」
よって、【マージンデット】と【名目GDP】の動向を同時にとらえると、GDPの影響によるマージンデットのぶれを除くことができるのではないか?
そして、マージンデットだけでなく、GDPの動きも同時にとらえるために、マージンデットをアメリカの名目GDPで割って100をかけた値を算出します。
この処理をすることで、GDPの変動要因を除いた、米国市場の長期的な投資家心理や信用状態を把握しやすくなるのではないかと考えます。
そして、この値を本ブログでは便宜的に「マージンデット指数」と呼びます。
マージンデット指数とは
マージンデット指数は、マージンデットを名目GDP(米国)で割って、100をかけた数値です。
マージンデット指数=マージンデット÷名目GDP(米国)×100
※「マージンデット」は一般的な名称ですが、「マージンデット指数」はわたしが便宜的に名付けている名称なので、一般的ではありません。
例えば、2015年12月末のマージンデット指数は、下記のデータ、計算より 「2.56」になります。
この時点のマージンデットは名目GDPの約2.6%だったことがわかります。
2015年12月末の
マージンデット⇒461.2(10億USドル)
アメリカの名目GDP⇒18036(10億USドル)
なので
マージンデット指数=461.2÷18036×100≒2.56
マージンデット指数の長期推移グラフと主要データ
ここで1995年1月末以降の「マージンデット」と「マージンデット指数」の長期推移グラフを見てみます。二つのの推移グラフを比較してみてください。
※出所:ニューヨーク証券取引所、世界経済のネタ帳のデータより管理者作成
マージンデットだけでなく、GDPとの関係性を同時にとらえると、アメリカ市場のバブルと暴落の様子を、長期的な時間軸な中で、より客観的に、より鮮明にとらえることができている、ようにわたしには見えます。
※しつこいですが、この指標は一般的ではありません
※わたしの錯覚かもしれません。少なくとも経験則です
また、この期間のマージンデット指数の
平均値(幾何平均):1.71
中央値:1.67
なので、便宜的にこの期間の
平均値:1.70
とします。
マージンデット指数の使い方
<長期平均との比較>
1995年以降の長期平均は1.70です。
この値より
●大きい⇒米国株は割高傾向?
●小さい⇒米国株は割安傾向?
と推測します。
※出所:ニューヨーク証券取引所、世界経済のネタ帳のデータより管理者作成
そして、この期間における経験則に過ぎませんが、
●「マージンデット指数 1.3以下」⇒株式は割安圏?
●「マージンデット指数 2.4以上」⇒株式は割高圏?
と考えてもよいかもしれません。
マージンデット指数とS&P500のグラフを並べてみます。
※出所:ニューヨーク証券取引所、世界経済のネタ帳のデータより管理者作成
※出所:ヤフーファイナンスのデータより管理者作成
マージンデット指数の問題点
マージンデット指数はあくまで、1995年以降の経験則に過ぎません。
ITバブル、サブプライムバブル、それぞれのバブルとその崩壊の推移を非常に端的に示しているため、わたしが個人的に参考にしている指標です。
また、未来を予知する指標ではありませんし、一般的な指標ではないので、ご参考程度に。
データの出所は以下の二つです。
ニューヨーク証券取引所(マージンデット)、世界経済のネタ帳(米国名目GDP)
おわりに
マージンデット指数の2017.4月のデータでは、近年の2度のバブル、ITバブルとサブプライムバブルを超える水準を示しています。
米国バフェット指標もほぼ同様の高水準を示唆しています。
恐怖指数(VIX)も歴史的な低水準にあります。
米国市場は割高圏?と推測されます。
ただ、すべて単なる経験則、ジンクス、状況証拠による推論です。
米国市場が今、割高かどうか、その決定的証拠を握ることは、現時点ではおそらく誰もできません。
刑事ドラマでよくあるような決定的な物証、アリバイ、動機的なものは、投資の世界では突き止められないように思われます。
唯一それを突き止められるのは「時間の経過」だけかもしれません。
後になってみないと何一つ断言できないのが投資の世界です。
引き続き、淡々と市場観察を継続していきます。
最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。
<米国市場の過熱感については「バフェット指標」や「恐怖指数」の記事も書いています>