米国株式市場の割安、割高を判断する材料になる指標「マージンデット」の紹介です。
マージンデットとは
マージンデット(Margin Debt)は、米国の株式市場(ニューヨーク証券取引所)が公表しているデータです。
マージンデットは「証拠金債務」のことであり、わかりやすくいえば、
「アメリカの投資家が株の売買ために金融機関から借りているお金の総額」
のことです。
※マージンデットのデータはコチラ ⇒ ニューヨーク証券取引所
マージンデット(指数)を知るメリット
★長期的な観点から米国株式市場の割安割高を探る材料になると思われます
マージンデットの長期推移グラフ
1995年1月末~2017.3月末のマージンデットの長期推移をグラフにしてみてみます。
※出所:ニューヨーク証券取引所データより管理者作成
大きな山が、
ITバブル(2000年)
サブプライムバブル(2007年)
2015、2017年
にあります。
大きな谷が、
ITバブル後の低迷期(2002~2003年)
リーマンショック後(2008~2009年)
にあります。
非常にわかりやすく、バブル期とその後の暴落、低迷期を示していることが見て取れます。
マージンデットをどう解釈するか
マージンデットは何を伝えているのでしょうか。
わたしは、米国市場の「投資家心理」と「信用状態」を示唆する指標だと考えています。
※日本の信用買い残とほぼ同じ解釈です
それぞれ説明します。
<投資家心理とマージンデット>
信用取引には利子がかかります 。「信用取引で買う」という行為は
わざわざ利子まで払って、
他人のお金を借りて、
株式の買いにつぎ込む行為
です。
これはかなり投資に前のめりな、リスクテイク志向な行為です。株価の上昇への期待感が大きい、楽観的な行為です。
したがって、マージンデットが増加するシーンやマージンデットが大きい状態の投資家態度・心理は、
●総じてリスクテイク志向
●楽観、期待、安心モードに偏っている
と判断してよいと考えます。
逆に、マージンデットが減少するシーンやマージンデットが小さい状態の投資家態度・心理は、
●総じてリスク回避志向
●悲観、失望、不安モードに偏っている
と判断します。
<信用状態とマージンデット>
また、お金を借りて株を買う行為は、まさに信用を拡大させる行為です。
●マージンデットが増える ⇒ 信用拡大
●マージンデットが減る ⇒ 信用縮小
ごく簡単に「信用」を説明すると、
信用=貸し借りの関係
です。借金したら拡大して借金を返したら縮小するものが信用であり、
「信用状態=世の中の借金のふくらみ具合」
です。
つまり、マージンデットは金融機関からの借金で増える数値なので
●マージンデットが増える⇒信用が拡大する
●マージンデットが減る⇒信用が縮小する
といえます。
では「株式の割安割高」と「信用状態」がどう関係するのか?
端的にやや乱暴にいってしまうと、
●世の中全体の借金が膨らめば膨らむほど(誰かが借金すればするほど)
●世の中全体の資産評価額は増加し、株価は上がりやすく
●株式は割高になる傾向がある
と思われます。
信用拡大⇒資産評価額増加傾向
⇒株価上昇傾向⇒株式は割高?
同様に、
●世の中全体の借金がしぼめばしぼむほど(誰かが借金を返せば返すほど)
●資産評価額は減少し、株価は下がやすく
●株式は割安になる傾向がある
と思われます。
信用縮小⇒資産評価額減少傾向
⇒株価下落傾向⇒株式は割安?
要するに、
株価は、世の中全体の借金の膨らみ具合の影響も受ける
ので、
信用状態の把握は株式の割安割高の判断指標にもなり得る
と思われます。
そして、世の中の信用状態を示唆する指標の一つがマージンデットだと考えられます。
マージンデットの問題点
このままマージンデットだけの分析で結論に向かうのには問題があります。
マージンデットだけでは、ある程度の傾向はつかめても、長期的な投資家心理や信用状態の変動を、的確に把握し続けることが困難だからです。
再度グラフを見ればわかるように、マージンデッドは1995年以降、長期的には右肩上がりになっています。
※出所:ニューヨーク証券取引所データより管理者作成
リーマンショック後の底値(約1733億ドル。2009年)でも、ITバブル後の底値(約1302億ドル。2002年)を上回っており、1995年頃の値と比較すれば、はるかに大きな値です。
同様に2017年の高値(約5369億ドル)はサブプライムバブル時の高値(約3813億ドル。2007年)を凌駕しており、ITバブル時(2000年)の高値と比べれば、2倍ほどの大きな値となっています。
これでは、
「2017年、マージンデットが過去最高額になった!」
と騒いでも(だれも騒いでませんが)、2017年の過熱相場がサブプライムバブルやITバブルを超えるバブルなのかどうか、判然としません。
そこで相関関係に着目します。
「マージンデット」と「株式時価総額(米国)」
の間には、強い相関があります。
また、長期的には、
ある国の株式時価総額と名目GDPの間には強い相関がある
と考えられます。これらの関係性を根拠に、
★マージンデットは、長期的には名目GDP(米国)に大きく影響を受け、GDPの変動次第で大きくぶれてしまう値である
★したがって、マージンデットだけでなく、GDPの動きも同時に見れば、長期的に米国の信用状態や投資家心理を的確にとらえ続けることが可能になるのではないか
と考えます。
★それぞれ強い正の相関がある
「マージンデット」⇔「株式時価総額」⇔「名目GDP」
よって、マージンデットと名目GDPの動向を同時にとらえると、GDPの影響によるマージンデットのぶれを除くことができるのではないか?
そして、マージンデットだけでなく、GDPの動きも同時にとらえるために、マージンデットをアメリカの名目GDPで割って100をかけた値を算出します。
この処理をすることで、GDPの変動要因を除いた、米国市場の長期的な投資家心理や信用状態を把握しやすくなるのではないかと考えます。
そして、この値を本ブログでは便宜的に「マージンデット指数」と呼びます。
マージンデット指数とは
マージンデット指数は、マージンデットを名目GDP(米国)で割って、100をかけた数値です。
マージンデット指数=マージンデット÷名目GDP(米国)×100
※「マージンデット」は一般的な名称ですが、「マージンデット指数」はわたしが便宜的に名付けている名称なので、一般的ではありません
例えば、2015年12月末のマージンデット指数は、下記のデータ、計算より 「2.56」になります。
この時点のマージンデットは名目GDPの約2.6%だったことがわかります。
2015年12月末の
マージンデット⇒461.2(10億USドル)
アメリカの名目GDP⇒18036(10億USドル)
なので
マージンデット指数=461.2÷18036×100≒2.56
マージンデット指数の長期推移グラフと主要データ
ここで1995年1月末以降の「マージンデット」と「マージンデット指数」の長期推移グラフを見てみます。二つのの推移グラフを比較してみてください。
※出所:ニューヨーク証券取引所、世界経済のネタ帳のデータより管理者作成
マージンデットだけでなく、GDPとの関係性を同時にとらえると、アメリカ市場のバブルと暴落の様子を、長期的な時間軸な中で、より客観的に、より鮮明にとらえることができている、ようにわたしには見えます。
※しつこいですが、この指標は一般的ではありません
※わたしの錯覚かもしれません。少なくとも理論ではなく経験則です
また、この期間のマージンデット指数の
平均値(幾何平均):1.71
中央値:1.67
なので、便宜的にこの期間の
平均値:1.70
とします。
マージンデット指数の使い方
<長期平均との比較>
1995年以降の長期平均は1.70です。
この値より
●大きい⇒米国株は割高傾向?
●小さい⇒米国株は割安傾向?
と推測します。
※出所:ニューヨーク証券取引所、世界経済のネタ帳のデータより管理者作成
そして、この期間における経験則に過ぎませんが、
●「マージンデット指数 1.3以下」⇒株式は割安圏?
●「マージンデット指数 2.4以上」⇒株式は割高圏?
と考えてもよいかもしれません。
マージンデット指数とS&P500のグラフを並べてみます。
※出所:ニューヨーク証券取引所、世界経済のネタ帳のデータより管理者作成
※出所:ヤフーファイナンスのデータより管理者作成
マージンデット指数の問題点
マージンデット指数はあくまで、1995年以降の経験則に過ぎません。
ITバブル、サブプライムバブル、それぞれのバブルとその崩壊の推移を非常に端的に示しているため、わたしが個人的に参考にしている指標です。
また、未来を予知する指標ではありませんし、一般的な指標ではないので、ご参考程度に。
データの出所は以下の二つです。
ニューヨーク証券取引所(マージンデット)、世界経済のネタ帳(米国名目GDP)
2017.3月末の米国株は割高か?
※出所:ニューヨーク証券取引所、世界経済のネタ帳のデータより管理者作成
最後に、ごく簡単に、この指標で2017.3月末の米国株の過熱感を探ってみます。
2017.3月末のマージンデット指数は2.77でした。
この指標だけで判断すると、完全にバブルの水準です。
ITバブル、サブプライムバブル並みか、それ以上のバブル水準です。
ただ、バブル水準がここ3年以上も続いているようにもみえます。
今後、長期高値水準からの暴落があるのか、新たなステージが来ていて、米国株はさらに上昇を続けるのか、先のことはわかりません。
とりあえず、米国株は割安ではなさそうです。
わざわざ長期投資を始める時期ではなさそうです。
わたしはむやみに動かず、経過をじっくり見届けるつもりです。