一昨日に続いて、信用評価損益率を取り上げます。
【信用評価損益率】の長期平均は10%以上のマイナスです。
どうしてこんなにマイナス幅が大きいんでしょうか?
信用取引損益率とは?
●信用取引損益率は日本市場において、信用取引で株を買っている人の損益状態を比率(%)で示す指標です。
●信用取引損益率が「-10%」なら、信用取引で買われている株式残高の含み損が、トータル平均で「-10%」であることを示します。
「+10%」なら、信用取引で買われている株式残高の含み益が、トータル平均で「+10%」であることを示します。
●自分以外の投資家の損益状況を知ることは、一個人投資家にとっては難しいことですが、この指標を見れば、それが簡単にわかります。
●データはコチラのサイトで手に入ります。
信用評価損益率の長期推移グラフ
<期間:2001.6.1~2017.5.12>
※出所:トレーダーズ・ウェブのデータより管理者作成
ほとんどの期間、マイナス圏で推移しています。
サブプライムバブルやアベノミクスの株価上昇時期においても、多くの時期、プラスにはならず、マイナス圏で推移しています。
信用取引で株を買うと、だいたいいつも含み損を抱えてしまうものなのか?
それにしても、異常な偏りです。
少し不思議な感じがしませんか?
信用評価損益率の主要データ
★平均値:-11.6%
★中央値:-10.7%
★最大値:+5.2(2013/1/25)
★最小値:-39.7(2008/10/24)
<期間:2001.6.1~2017.5.12>
【信用評価損益率】の長期平均がマイナスであることの意味
①行動経済学の観点から
信用評価損益率の
★15年以上の長期データの平均値が-11.6%
★信用評価損益率がプラスの時期がほとんどない(含み益が出ている状態がほとんどない)
という事実は、総じて、日本の信用取引(買い建て)をしている投資家が、
利益が出ればすぐ売ってしまい、損失が出ていると、放置してしまう
取引を行っていることを端的に示していると推測されます。
つまり、信用取引(買い建て)で利益が出ている銘柄は
すぐに利益確定し、
損失の出ている銘柄は、
そのままにしておく、
その結果、信用取引損益率はほとんどいつもマイナスになっているのではないかと考えられます。
※あくまで、「全体的な傾向」として、こういう投資スタイルに陥りがちであろうという推測です
※ちなみにわたしは昔よくやってました。含み損はトントンに戻るかもしれないし、利益確定は嬉しいので、ついついやってました。
この
「利益はすぐに確定し、損失は放置する」
という行動は行動経済学でいうところの、
●後悔回避
失敗やミスをすると後悔が大きいため、できるだけ楽な選択をする
●認知的不協和
無意識のうちに自分に都合のよい情報を受け取り、都合の悪い情報は無視する
●現状維持バイアス
「現状を維持する」という選択肢が入ってくると、たとえ不合理でもそれが選ばれやすくなる
●損失回避
損を確定するくらいなら、何もしない方がマシだと考える
などの行動にそっくり当てはまります。
<参考書籍>知識ゼロからの行動経済学入門 川西諭(著) 幻冬舎 2016
分かっていてもついついやってしてしまう行動ですが、人間心理の弱点です。
重大な投資判断を迫られる際には、これらのバイアスに自分が支配されていないか、気にしたほうがいいかもしれません。
②期待値の観点から
投資の期待値の観点からも
「利益はすぐに確定し、損失は放置する」
投資行動は、望ましい行動ではありません。
※期待値とは「①賭けの勝率」×「②賭けの収益率」で求められる値です。
期待値=勝率×収益率
①勝率:文字通り、賭けに勝てる確率です。
②収益率:勝ったら+30%、負けたら-50%というような、収益の大きさを表す比率です。
※期待値がマイナスの賭けは、やればやるほど損失が増える可能性が高くなっていきます
※逆に、期待値がプラスの賭けは、やればやるほど収益が増える可能性が高くなっていきます
含み益をすぐに利益確定してしまい、含み損も同時に確定すれば、それほど投資の期待値は低くならないかもしれません。
しかし、小さな利益確定を繰り返し、含み損を放置していると、たまにやってくる急激な下落相場で、巨額の損失を被る可能性があり、長期的には期待値がマイナスになりやすく、結果、トータルで負けやすい投資スタイルであると思われます。
まるで日本庭園にある鹿威しのように、ちょろちょろと少ない水(小さな利益)をため続け、ときが来るとポンッと竹の音がして、たまった水がすっかり流れ去り(大きな損失)、そのあとには空虚な静寂が訪れるような・・・投資スタイル。
投資の神様がいるとすれば、その神はけっこう意地悪だと思います。
まとめ
少し脱線してしまいましたが、本記事をまとめると以下のようになります。
【信用評価損益率】の長期平均が大幅なマイナス
⇒信用取引で買い建てている日本の投資家は総じて
「利益はすぐに確定し、損失は放置する」
投資スタイルになっている可能性がある
⇒経験的にも、理論的にも、この投資スタイルは分が悪そうだ
⇒それでもやっていまいがちなのは、自然な人間心理の結果だが、投資で勝つには避けた方がよさそうな、投資スタイル