近年、全世界の経済成長率はやや低下傾向にあると思われます。
このような時代にどのように対応して長期投資を行うのがベターなのか、米国・日本・欧州・中国について、生産年齢人口の推移と予測から考えてみました。
世界的な経済成長率の低下傾向
※出所:グローバルノートのデータより管理者作成
上記表は、全世界の経済成長率について、1990-2015年の25年間、1990-2000年の10年間、2000-2010年の10年間、2010-2015年の5年間の年率平均の「実質経済成長率」「人口増加率」「一人当たり経済成長率」をまとめたものです。
※「実質経済成長率=人口増加率+一人当たり経済成長率」なので、「人口増加率」が減っていくと、「一人当たり経済成長率」が上がらない限り、経済成長率は低下していきます
一人当たり経済成長率はそれほど落ちていないのですが、主に人口増加率の低下により実質経済成長率は徐々に低下してきています。
今後も人口増加率は低下傾向と予測されており、これまでの推移を重視すると、今後も経済成長率は低下傾向かもしれません(これは単なる推測です)
そこで、人口増加率と同様、予測が比較的当たりやすい指標「生産年齢人口の伸び率」という観点から、米国・日本・欧州・中国、それぞれの投資対象国としての是非について考えてみます。
生産年齢人口の伸び率の概観
※JPモルガンアセットマネジメント資料より。以下全て同じ
上記グラフは長期的な生産年齢人口の伸び率を日・米・欧州・中国に分けて10年単位でわかりやすく示したものです。
2015-2025は予測される数値であり、1955-2025の70年の推移をカバーしています。
ざっくり見てみると、日本は1965-1975の頃からすでに生産年齢人口の伸び率が明確な減少傾向にあります。
また、欧州、中国も1985-1995から生産年齢人口の伸びは明瞭な低下傾向にあります。
日本は1995-2005、欧州は2005-2015から伸び率がマイナス、つまり生産年齢人口が減少に転じており、中国も2015-2025には減少に転じるとの予測がされています。
4つの国と地域のうち、比較的伸び率の低下が緩やかであった米国にしても、2005-2015から著明に伸び率が低下しているのが確認できます。
生産年齢人口とは?
生産年齢人口は簡単にいえば「働き手世代の人口」のことであり、一般的に15-64歳の人口のことです。
現在、日・米・欧州・中国という世界の主要な経済圏すべてで
「生産年齢人口は減少傾向」か「伸び率が鈍化している」
状況にあるといえます。
この状況が「世界的な経済成長率の低下傾向」の主な原因かどうかはわかりませんが、要因の一つではありそうです。
雑な説明になりますが、
経済活動の主体は「働き手世代」であり、この世代の人口が減る国の経済活動は減速しやすく、
その結果、経済成長率は低下する可能性が高いと思われます。
長期的には経済成長率が低い国の株式インデックスは総じてあまり上昇しない傾向があること
を考慮すると、生産年齢人口の動向は、長期的な投資であればあるほど、投資パフォーマンスに与える影響力が大きくなる可能性があります。
生産年齢人口の減少
⇒経済成長率へのネガティブな影響?
⇒長期投資のパフォーマンスへのネガティブな影響?
以下、それぞれの国、地域について簡単に見ていきます。
日本の実質経済成長率と生産年齢人口伸び率
※出所:世界経済のネタ帳、国連人口推計2015年版(中位推計)のデータより管理者作成
日本の経済成長率は1990年代を境に大きく低下しています。
日本の働き手世代の人口が減少に転じたのは1990年代であり、働き手世代の人口減少は、経済成長率にネガティブな影響を及ぼしたかもしれません。
中国の今後は今までよりは厳しそう
※出所:世界経済のネタ帳、国連人口推計2015年版(中位推計)のデータより管理者作成
かつての日本もそうだったと思われますが、中国の近年の高度成長は上記グラフからうかがえる人口動態に支えられていたともいえそうです。
働き手世代が高い率で増加していた期間が数十年続いていて、いわゆる「人口ボーナス」の影響が高度成長を支えていたとも考えられます。
2015-2025年には、このプラス要因が失われ、むしろ生産年齢人口は減少すると予測されています。
この指標からは、今までに比べれば、近年の世界の経済成長を支えてきた中国の勢いは徐々に低下していく可能性は高いと推測されます。
欧州もパッとしない
欧州もなかなか厳しい見通しです。
今後生産年齢人口は減ることはあっても、大きく増えそうな気配はあまりありません。
米国もよくはないが、プラス確保。比較的優位にある
※出所:世界経済のネタ帳、国連人口推計2015年版のデータより管理者作成
米国は2015-2025も生産年齢人口が、わずかですが増加すると予測されています。
以前に比べれば決してよくはない状況ですが、それでも他の3つの経済圏に比べれば、この指標において比較優位にあるといえます。
このような比較優位性も現在の米国株高の一因かもしれません。
まとめ
生産年齢人口の観点から、4つの国と地域の投資対象国としての魅力を探ってみました。
この指標からは、比較的優位なのは米国でした。
もちろん、この指標だけで経済成長率のすべてが決まるわけでなく、また生産年齢人口が減っても
・高齢者の就労比率
・女性の就労比率
の上昇などで、経済的にネガティブな影響を小さくできる可能性もあります(それを社会全体として受け入れるかどうかの問題はおいて、理屈の上では)。
ただ、世界的な経済成長率の低下傾向が今後も持続するなら、長期投資を始める場合は特に、
生産年齢人口、人口増加率といった、予測が当たりやすい指標を重視して投資する
方が、投資の成功確率が上がるような気はしています。
また「世界的な経済成長率の低下傾向が今後も持続する」とするなら、それは昔より長期投資の難易度が上がっていることを意味すると思われるので、
A:できるだけ割高な時期(割高っぽい時期)に大事な投資資金を株式やリートにぶっこまない
B:できるだけ割安な時期(割安っぽい時期)に投資資金をリスク資産にぶっこむ
C:人口動態の今後の予測が明らかに厳しい国や地域への投資を行わない、あるいは投資配分を小さくする(例えば日本、ドイツ、スペイン、イタリアなど)
といった対応が長期的な投資パフォーマンスを向上させる上で重要になってくるかもしれません。これはあくまで理屈であって、それを「実際できる」かどうかは別問題ですが・・・
※個人的な好みです。いつが割安で割高なのかは、明確に判断できません
※「世界的な経済成長率の低下傾向が今後も持続する」かどうかはわかりません。上記の理屈はあくまで、わたしの好み、そして確率の問題に過ぎません
<関連記事です>
名目GDPと時価総額の関係を考察しています↓