この記事は
【信用買い残】と【TOPIX】の相関関係
について記載したものです。
一般的な投資家心理を理解するのに役立つデータ、かもしれません。
信用買い残とは
信用買い残は、日本の株式市場での信用取引における、買い(方)の残高のことです。
信用買い残=信用買い方の残高
より詳しく説明すると、信用買い残は
日本の投資家が
証券会社から、
利子を払ってお金を借りて、
そのお金で買って保有している株式の、
ある時点における残高、評価額の総和です。
例えば、わたしが
証券会社で信用取引口座を開設し、
100万円の証拠金で200万円分の株式を信用取引で買い建てた場合、
信用買い残は200万円分だけ増えた
ことになります。
この200万円分を売れば(返済すれば)、信用買い残は200万円分、減ります。
ちなみに2017年9月8日時点の信用買い残は約2.7兆円です。
この一文の意味するところは、
2017年9月8日時点で、
日本の投資家が、利子を払ってお金を借りて、
買いポジションで保有している株式が約2.7兆円分ある
ということです。
※信用買い残のデータはコチラ ⇒ トレーダーズ・ウェブ
※下記サイトも参照ください。「信用残」の説明です。 ifinance
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信用買い残をどう解釈するか
信用買い残は何を伝えているのでしょうか。
わたしは「投資家心理」と「信用状態」を示唆する指標だと考えています。
<投資家心理と信用買い残>
信用取引は証拠金を担保にお金や株式を誰かに借りて行う取引なので、利子がかかります。
※利子は制度信用で年率1.3~3.1%程度
また、制度信用<※日興証券>の買いだと、買って6ヶ月後までに売って、返済しなければなりません。
つまり「信用取引で買う」という行為は
わざわざ利子まで払って、
期限つきで、お金を借りて、
株式の買いにつぎ込む行為
です。
これはかなり投資に前のめりな、リスクテイク志向な行為です。
株価の上昇への期待感が大きい、楽観的な行為です。
したがって、信用買い残が増加するシーンや信用買い残が多い状態の投資家態度・心理は、
●総じてリスクテイク志向
●楽観、期待、安心モードに偏っている
と判断してよいと考えられます。
逆に、信用買い残が減少するシーンや信用買い残が少ない状態の投資家態度・心理は、
●総じてリスク回避志向
●悲観、失望、不安モードに偏っている
と判断してよいと推測されます。
<信用状態と信用買い残>
経済学の世界で信用(クレジット)は
お金の「貸し手ー借り手間」の
「貸しましたよ。返してもらう権利あります(債権)」
「借りました。返す義務あります(債務)」
という約束・関係性(債権・債務関係、権利・義務関係)
を意味するようです。
わたしがローンで何か買えば、その分信用は拡大、返済すれば信用は縮小します。
くだけていえば、借金で金回りがいい世の中であればあるほど、信用は拡大しており、金回りがよくない世の中であればあるほど、信用は縮小している傾向があるようです。
で、信用買い残に関しても、証券会社から借金して株を買うと世の中の信用はその分、拡大します。
返済すれば、信用は縮小します。
・信用買い残が増えれば世の中の信用はその分拡大
・信用買い残が減れば、世の中の信用はその分縮小
一般に、世の中の信用が拡大する状態では資産価格は上がり、割高になりやすく、信用が縮小する状態では資産価格は下がり割安になりやすい傾向があるようです。
よって、信用買い残の多寡が、世の中の信用状態を探る、一つの目安になる可能性があると推測されます。
※信用状態については詳しくはこちら⇒「信用動向に寄り添う投資スタイル」の一例
【信用買い残】と【日本の株価・TOPIX】の相関関係
では、実際、日本の株価(ここではTOPIXを利用)と信用買い残の関係はどうなっているのか。
両者の相関関係を調べてみました。
<データ期間>
信用買い残は2001年5月~2017年8月の最も月末に近いデータ。
TOPIXは月末データ
<データ個数>
196個
<両者の相関係数>
0.83
<相関係数の評価>
0.7以上は強い相関なので、この期間においては両者の間には強い相関があると考えられます。
※出所:トレーダーズ・ウェブ、 Yahoo!ファイナンスのデータより管理者作成
全般に信用買い残とTOPIXに正比例の関係があることが確認できます。
結果の解釈
相関係数 0.83 は強い正の相関なので、
株価が上がる ⇔ 信用買い残が増える
株価が下がる ⇔ 信用買い残が減る
という傾向が強くみられるようです。
そして、信用買い残の動向は、信用状態や投資家態度・心理を反映すると考えられるので、この期間において、TOPIXが上がると
・信用がふくらむ
※信用状態についてはこちら⇒「信用動向に寄り添う投資スタイル」の一例
・投資家の態度がリスクテイク志向に偏る
・投資家心理が楽観、安心、期待モードに偏る
傾向があったことを示唆します。
逆に、TOPIXが下がると
・信用がしぼむ
※信用状態についてはこちら⇒「信用動向に寄り添う投資スタイル」の一例
・投資家の態度がリスク回避志向に偏る
・投資家心理が悲観、不安、恐怖モードに偏る
傾向があったことを示唆します。
つまり、
株価が上がると借金して株は買われやすい?
の問いに対する答えは、
2001.5月末以降の日本市場では
そのような傾向がありそう
といえそうです。
おわりに
※出所:トレーダーズ・ウェブのデータより管理者作成
2001.5月末~2017.8月末の信用買い残の推移です。
ITバブル崩壊後、リーマンショック後に信用買い残は1兆円程度まで減少しています。
株価がへろへろの時期には、わざわざ借金して株を買う人は少なくなります。
そして、こういう時期に、株式は割安で買えた、という経験則があります。
今後、例えば信用買い残が1.5兆円以下に落ちてくるような事態が来るのか、それはわかりませんが、信用買い残は
・株価に影響を受ける投資家の心理状態
・世の中の信用状態
・株式の割安なタイミング
を探る、目安にはなるような気がします。
例えば、信用買い残⇒1兆円なら、
その数字を知るだけで株価や他の指標は見ないでも、
日本の投資家は投げ売り状態で恐怖心いっぱい、市場から逃げ出したがっていて、世の中の金回りは総じて悪く、ローン審査なども厳しくなっている?
信用買い残⇒4兆円なら、
日本の投資家は楽観的で株価も高く、売買代金も多くて証券会社も儲かってる。世の中の金回りは総じてよく、ローン審査なども甘くなってる?
という推測が経験的には可能かもしれない、ということです。
経験則なので、将来、そうなる保証はないですが。
便利な指標だと思うので今後も観察していきます。
データは公表されています。
※信用買い残のデータはコチラ ⇒ トレーダーズ・ウェブ
関連記事です
米国にも信用買い残と似た指標、マージンデットがあります。
S&P500が上がればマージンデットも増えるという、「信用買い残-TOPIX」と同じような関係性が観察できます。