資産運用において用いられる「機会損失」と、わたしの造語である「機会利益」に関する記事です。
機会損失とは
「機会損失」という用語は、資産運用においても使われることがあり、この場合は「マーケット(市場)の変動による儲け損ない」を意味します。具体的には、儲けられる可能性が高い時に取引(売買)を躊躇したり、あるいは塩漬けにしたポジションを損切れずに、ずっと持ち続けたことにより、新たなポジションを作れずに収益機会を逃したりする場合などが挙げられます。
※引用元:機会損失とは|金融経済用語集
資産運用において用いられる「機会損失」は一般的に上記のような用いられ方をするようです。
勇気を出して投資していれば、得られたであろう収益を想定した言葉です。
やらないことのリスク、動かないことのリスク、それは明確に存在します。
ではなぜ、人は「機会損失」することがあるのでしょうか?
やればいいのに、なぜやらないのか、リスクをとればいいのに、なぜリスクをとらないのか?
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やってるから背負うものとやってないから背負わなくていいもの
当たり前なことですが、やったから発生するリスクがあるからです。
リスクをとったから生じるデメリットがあるからです。
ここで「車の運転」を例に考えてみます。
免許を取得して車を運転できるようになれば、様々なメリット、リターンがあります。
通勤に便利
ドライブを楽しめる
旅行にも行ける
活動範囲が大幅に広がる、、、
運転できることでさまざまなメリットが生じます。
ただ、運転することで、リスクも生じます。
例えば、交通事故です。
いくらメリットが大きくても、いくら保険に入っていて多額の保険金がおりても、一生介護が必要になるような大事故に、車を運転できたからこそ遭ってしまった場合、とりあえず、人は後悔するでしょう。
車なんか、乗らなきゃよかった。
ひどい事故に自分が遭うか遭わないか、それは誰もわかりません。
確率的には低くても運悪く遭うかもしれないし、70年乗っても遭わない人もいるでしょう。
つまり、未来を予見できない以上、車を運転できることがトータルで「いいのか悪いのか」は、過去のことでないと、誰にもわからないような気がします。
投資も
今投資していることが「いいのか悪いのか」は、誰にもわからない
という意味では、車の運転と似ています。
そして、投資しているからこそ発生するリスクがあります。
価格変動リスクです。
機会損失リスクを逃れても価格変動リスクが待っています。
機会利益?
繰り返しになりますが、
投資をしてよかったかどうか
は、後でふり返ってみないとわかりません。
投資をしていてよかった場合は
・「機会損失」を被らなかった
・リスクをとって正解だった
ケースです。
ただ、投資には価格変動リスクが必ずつきまとうので、場合によっては、
投資をしてなくてよかった
という場合もあります。
下落相場の目前で投資を躊躇した場合、それは投資を実行した場合に比べて、大きな(含み損を被らなかったという)利益を得ることになります。
これを仮に
「機会利益」
と呼んでみます。
投資を行わなかったからこそ失わなかったものを「機会利益」と見なして両者を眺めてみると、実は、「機会損失」という言葉が単なる
後付けの解釈
に過ぎないことが浮かび上がります。
機会損失の具体例
具体的に見てみましょう。
※出所:^GSPC : Summary for S&P 500 - Yahoo Financeのグラフより管理者作成
上記は1989年から現在までのS&P500の推移です。
一例として1989年~2001年までの「機会損失」の大きさを示しています。
1989年にS&P500に投資しなかったから、2001年までにとても大きな機会損失を被っています。
機会利益の具体例
※出所:^GSPC : Summary for S&P 500 - Yahoo Financeのグラフより管理者作成
上記は1989年から現在までのS&P500の推移です。
一例として、2001年1月~2002年7月までの「機会利益」の大きさを示しています。
2001年1月にS&P500に投資しなかったから、2002年7月までにとても大きな機会利益(投資をしていなかったから逃れられた含み損)が得られています。
そして、2001年の高値は2007年に再現されますが、またすぐに株価は大きく下落し含み損となり、S&P500が2001年レベルに回復するのは、2013年です。
2001~2013年まで、機会利益はプラスだったと捉えることも可能です。
当然、ドルコスト平均法などで投資機会の分散を図ることで、このようなリスクを軽減することは可能ですし、厳密にいえば、「長年の配当所得」「インフレ率」「為替レート」なども考慮した判断をする必要がありますが、
・最悪の時期に大きくリスク資産に傾斜した投資を行っていた場合
・そして、毎年投資に回せる金額に比べて、資産規模がとても大きかった場合
含み損地獄から抜け出し、資産評価額が回復するまでに、相当な年月がかかるケースが存在する可能性があります。
近年の米国は報われやすい市場でしたが、日本のTOPIXや日経平均は1989年12月末の株価を、30年近く経った2017年9月になっても超えることができていません。
過去においては超長期で見れば圧倒的に「機会損失」を恐れる方が正しいが・・・
そうはいっても超長期で見た場合、米国株のパフォーマンスは目を見張るものがあります。
※出所:^GSPC : Summary for S&P 500 - Yahoo Finance
上記グラフは1950年以降のS&P500のチャートです。
下手にリスクを考慮して、投資しない方が間違ってるように見えます。
超長期的に右肩上がりであり、過去においては総じて
「機会利益」のメリットより「機会損失」のリスクの方が大きかった
ことはまぎれもない事実です。
※出所:^GSPC : Summary for S&P 500 - Yahoo Financeのグラフより管理者作成
しかし、再度1989年以降のグラフをより詳しく見てみると、若干異なる風景も見えてきます。
二つの大きな谷があります。
2001年~2009年の約8年間で、米国市場は2回の大きな下落期を経験しています。
この8年に限っては、ひどいアップダウンを経験した厳しい時期でした。
下げて上がってまた下げる、概算ですが
1500⇒800⇒1500⇒800
と、S&P500は8年かけて結局半値近くになっています。
超長期でみれば、米国市場に8年も投資していれば、当然利益が出ているはずですが、実際は8年かけて半値近くに暴落しています。
すなわち、運が悪過ぎれば迷い込む、長期的にはハイパフォーマンスな米国市場の、悲惨な8年間です。
この8年を耐え忍べば、素晴らしい未来が待っていたのですが、8年間でメンタルを痛めつけられた投資家が、2009年の時点で明るい未来を期待し粛々と投資を始められたかどうか、あなたはどう考えますか?
少なくとも何かしら確固としたものがないと、リタイアしやすい時期ではあったと思います。
まとめますと
米国のような長期的な経済成長が見込みやすく、世界中の投資資金を呼び込みやすい国の市場に超長期投資をするのは、基本的に妥当な判断で過去の実績もある
のですが、
ただ、そのような有望な国の市場であってすら、常に右肩上がりではありえず、近年の歴史を見れば、運が悪いと地獄のような8年間の投資ライフを過ごす可能性もあること
も忘れてはならないと思います。
結論
過去における超長期のデータでは
「機会損失」を恐れてS&P500への投資をした方がよかった
というのが事実であり、多くのケースでは
「機会損失」を恐れた方が、「機会利益」をもくろむより正しかった
のですが、
運が悪いと、たまにそうでない場合もあった・・・
そして、「機会損失」「機会利益」というのは両者とも単なる
後付けの解釈
に過ぎません。
つまり、未来を予見できない以上、
今投資していることが「いいのか悪いのか」は今は誰にもわからない
のであって、
・「機会損失」を恐れる方を選択するか
・「機会利益」をもくろむ方を選択するか
その是非も今は誰にもわからない、5年10年経ってみないとわからない、時間の経過というものが少しずつ解明してくれる、ブラックボックスだと思います。
そして、未来がわからない宿命の中で行うのが投資であって、
後付けなら何とでもそれっぽく解釈できること
には要注意であり、
・強気にも弱気にも、過信しすぎないこと
・何が起きるかわからないので、まず第一に致命的なダメージを負うようなポジションを作らないこと
・どんな有望な市場の長期投資にも、かなり長期にわたる「苦しすぎる時期」もあったことを忘れないこと
そういった当たり前なことが長期投資一般において大事なことなのかもしれません。