期間の異なる米国債の利回りの差から、米国の景気動向、株式市場の動向を推測する記事です。
米国債の長短金利差を確認するメリット
米国の景気・株式市場の動向を探る役に立つかも?
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現在の長短金利差
米国の
・A:長期国債の利回り・長期金利(本ブログでは10年国債)
・B:短期国債の利回り・短期金利(本ブログでは2年国債)
の差は現在、0.63%程度です。
※A:2.48%。B:1.85%。A-B=0.63% <2017.12.21現在>
※データ:米国債・金利 - Bloomberg
長期国債利回りと短期国債利回り、影響を受けるもの
一般に
長期国債利回り(以下、A)は
「長期資金の需要と供給、実体経済におけるいわゆる景気の影響」
を大きく受けるとされます。
※景気がよく長期資金の需要が多ければAは上がる傾向、逆も然り
一方、短期国債利回り(以下、B)は
「政策金利の影響」
を大きく受けるとされます。
※中央銀行が政策金利を上げればBは上がる傾向、逆も然り
普段の両者の関係
通常、債券発行者の信用力は、より遠い将来のほうが低いとされます。
(10年債の方が2年債より債務不履行の可能性は高いとみなされる)
したがって、長期金利には追加的な利息(信用プレミアム)が上乗せされ
・A>B
(Aの利回りはBより高い。長期金利の方が短期金利より利回りが高い)
が常態です。
両者が特殊な関係にある時期
ただ、特殊な例として、
●景気があまりよくなく、A(長期金利)が高くないのに、
●中央銀行の利上げなどでB(短期金利)が高くなりすぎれば、
●景気の減速をもたらし、金融市場にも大きな混乱がもたらされる
というケースがあります。
つまり、
ふだんは
・A>B
が基本なのに
・A<B
(Aの利回りがBより低い。逆イールド。長期金利より短期金利が高い)
になる場合、
・景気水準に比べて、政策金利が高くなり過ぎている
可能性があり、
・景気水準に比べて高すぎる政策金利が、景気減速や株価の下落を誘発するかもしれない、要注意の時期
と考えることもできます。
以上をふまえて、米国債の長短金利差(ここでは「10年債利回り-2年債利回り」)の近年の歴史を見てみます。
1980年以降の事例
ロイターの記事です。
米国は1980年以来で5回景気後退を経験したが、5回ともその前に逆イールドを経験している。
※上記記事からの引用
1980年以降では景気後退の前に逆イールドが起きているとのこと。
「短期利回り>長期利回り」の状態を経て、その後景気後退が起きた、というジンクスがあります。
※出所:FRED | St. Louis Fedのグラフより管理者作成 ※期間:1976年~2017.11月
1976年以降の長短金利差のグラフです。
5回の逆イールド期とその後の景気後退期(グレーラインの時期)を示しています。
5回とも景気後退期の前に逆イールドが生じており、確かに逆イールドは不吉な兆候。
金利差の短縮トレンドも株価には優しくなさそうです。
1995年~の米国債の長短金利差(10年債利回り-2年債利回り)
※出所:アメリカ 10年 債券利回り、アメリカ 2年 債券利回りのデータより管理者作成 ※期間:1995年1月~2017年11月
1995年以降をより詳しく見てみます。
金利差がマイナスの時期(逆イールドの時期)は、この22年ほどで主に2回です。1998年6月(一瞬)と
①:2000年2月~12月
②:2005年12月~2007年5月(断続的)
です。
景気後退が始まったとされる時期は、水色のラインで示される時期です。
※出所:アメリカ 10年 債券利回り、アメリカ 2年 債券利回りのデータより管理者作成
確かに①②の時期、逆イールド期の後に景気後退が始まっています。
金利差逆転時期と株価の関係
<逆イールド期>
①:2000年2月~12月
②:2005年12月~2007年5月(断続的)
さらに、①②の時期とS&P500の関連を見てみます。
※出所:アメリカ 10年 債券利回り、アメリカ 2年 債券利回り、^GSPC : Summary for S&P 500 - Yahoo Finance のデータより管理者作成
長短金利差と株価(【S&P500】を900で割ったもの)の推移グラフです。
①②の時期と株価の様子を観察すると、
①⇒逆イールド期に株価はピーク
②⇒逆イールド期の後、しばらくたって株価はピーク
に達し、その後大幅な下落期が訪れています。
ここ5年の金利差
※出所:アメリカ 10年 債券利回り、アメリカ 2年 債券利回りのデータより管理者作成
ここ5年で見ると、2014年以降、明らかに金利差は縮小トレンドです。
しかし金利差逆転、逆イールドにはまだ達していません。
まとめ
以上を総括すると、
・明確な金利差縮小トレンドにあり0.6%程度まで短縮してきている
⇒景気後退が遠くないことを示唆?
・逆イールドに達していないこと
⇒まだまだ大丈夫と考える根拠?
との解釈は可能かもしれません。
ただ、FRBは現在、資産縮小を始めています。
「利上げ」だけでなく、「資産縮小」で金融引き締めを行っている最中です。
●「利上げ+資産縮小」による金融引き締めが実体経済や金融市場にどのような影響を与えるのか
●相乗効果はあるのか
●さほど大きな影響はないのか
以前とは異なる状況であり、未知の世界、わからない部分も多いと思われます。
結論として、長短金利差と資産縮小の観点からは
●逆イールドでないから株式市場はまだ大丈夫かもしれない
●ただ、明確な金利差縮小トレンドにあり、FRBの資産縮小も加わった2方面からの引き締めだから、それほど安心できない状況?
というのがムリの少ない解釈、かもしれません。
もちろん、金利差や資産縮小だけですべてが決まるわけではないので、一つの目安に過ぎませんが。
おわりに
12月15日頃、長短金利差は「0.51%」まで縮まりましたが、現在は0.60%程度まで開きました。
引き続き、長短金利差についてはときどき記事にしていく予定です。
<過去1年>
※出所:FRED | St. Louis Fedのグラフより管理者作成
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