「時空をこえたメッセージ」の2回目です。
「敗者のゲーム」で有名なチャールズ・エリスを取り上げます。
時空をこえたメッセージ②
「バーゲンセールの時には買いたくない。値段が上がった時に買います」などという客はいないだろう。だが、実際に、われわれは投資をする時、このような行動を取っている。
(中略)
ジェイソン・ツヴァイクが指摘するように、「われわれは靴下(socks)を買う時のように株(stocks)を買えば、もっとうまくいく」のだ
※出所:チャールズ・エリス「敗者のゲーム」
なぜか、株価が上がると株を買いたくなり、株価が大きく下げていると株を売りたくなる・・・
わたしたちに備わっているこの不合理で謎な心理現象を、鋭く、やや皮肉を込めて、そして穏やかに指摘してくれる言葉です。
靴下だとあまりリアリティーがでないので、車を例に考えてみます。
一台200万円が相場の車が欲しいわたしは、いろんな店を回ります。
ネットでも調べ上げます。
でも、なかなか安くはなっていない。
せいぜい10万くらいの差しかない。
それがある日、120万円で新古車として販売されています。
機能的にはほぼ新品に近い。
メーカー系列の販売店で、しかも家のそば、何かあってもサポートも受けられるし、文句も言いに行けます。
同じ日、この車をどういうわけか250万円で販売している店も見つけました。
比較検討に余念がないわたしには、なぜ50万円も余分に上乗せされているのか、訳が分かりません。
当然、そのお店には見向きもしません。
結局熟慮の末、わたしは近所の120万円の店で車を買いました。
店の対応も親切で、安くなっていた理由も不自然ではないことが判明します。
おもわず笑みがこぼれます。
「あの変な店の値段の半額だ。今日はいい買い物をした!」
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おそらく、これはさほど不自然なお話ではないと思います。
まあ、そこそこがんばって安値でいいものが手に入ったんでないの?
という同意を得られやすい話だと思います。
なのに、投資になると、わたしたちは
「値上がりしている資産に群がり、値下がりしている資産を避ける」
傾向があります。
この例えでいえば、割高な250万に魅力を感じ、割安な120万に魅力を感じない、そんな不思議な心境に陥り勝ち。
具体的にある株価のグラフを見てみましょう。
「あなたはどのグラフを見ると株を買いたくなりますか?」
<グラフ①>
<グラフ②>
<グラフ③>
<グラフ④>
①と③は、何となく安心感があります。
このまま上がっていってくれるのでは?
そう思わせる雰囲気があります。
②と④は不安です。
ずっと下がってるじゃないか!こんなもの、買えん!
そういう魂の叫びが聞こえてきます。
勘のいいかたはすぐ気づかれると思いますが、上記4つのグラフは、全て近年のS&P500のグラフです。
①:ITバブルの軌跡
②:サブプライムバブル崩壊の軌跡
③:リーマンショック後~2017.4月末の軌跡
④:ITバブル崩壊の軌跡
このうち、歴史的に買ってよかったタイミングは
②と④
です。
まさに、絶好の投資機会、5年もたてば資産を2倍以上にできた、滅多にないチャンスでした。
逆に①のタイミングで買うと、約2年半もの地獄の下落相場(グラフ④の時期)が続く、悲惨な投資タイミングでした。
でも、よくよく考えると、②と④は買うべき時期で、①は売るべき時期と考えるのは、当たり前、投資の基本ではないか?
投資で収益率を高める基本は
「安く買って高く売る」
「割安時期に買って割高時期に売る」
です。
基本的には、インデックス投資のリバランスのように
安くなっている時期に買い、高くなっている時期に売る
または
株が安くなっている時期に株式の配分比率を高め
株が高くなっている時期に株式の配分比率を下げる
べきであり、普通に考えれば、
買うのはこういう時期
↓(理由)安くなってるから
売るのはこういう時期
↓(理由)高くなってるから
であるはずではないか?
車や靴下なら安くて手ごろなものがあれば、合理的に判断して買う。
妙に高いものには寄りつかない。
しかし、投資になると、どういう訳か、高い時期に買いたくなる。
安くなっているのに寄りつかない。
わたしを含めておそらく多くの人間には、このミステリーな性向が生まれながらに備わっていると思われます。(人によって強弱はあると思いますが)
そして、
この性向は、投資では、危険ですよ
そう、穏やかに諭してくれるのが、チャールズ・エリスです。
だれもが逆張り投資やバリュー投資、インデックス投資をすべきだとわたしは思っていません。
投資は投資家自身が自分のニーズに合わせて自由に行えばいい、誰にも未来予測ができない以上、
もともと投資に「正解」はない
のだから、他人にやいのやいの言われてやることではない、そう思っています。
ただ、多くの人間は投資に関して、いくつかの弱点を備えていて、投資家たるもの、その弱点は自覚しておいてもよいのではないか、そう思います。
わかっていても、やってしまうのが人の性(さが)ですが、それでも
自分の弱点を自覚しておく
のは、長い目で見ると、大事なことのように思います。
わたし自身、修行中ですが・・・